日独戦争と俘虜郵便の時代 28 03.05.14. |
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13) 神尾司令官凱旋と東京駅開場 |
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“暮近い街の賑ひ、只さへ都會の大渦巻が波のうねりのように八百八町を流れて 居るに今日は外征将軍の凱旋と東京驛開業式とが重なつて、國旗と緑葉に飾られ た大東京街上には折からの「花の日」に胸を飾った市民が右往左往に往来して、空 には轟く花火の彩火、各町内は又思ひ思ひの余興に欣びの色と音とが歌へ祝へと 人のこころをそそるだろう。” 大正3年12月18日付の東京朝日新聞は、こんな書出しで神尾司令官の凱旋と東 京駅開場の祝賀会当日を伝えている。独立第十八師団神尾司令官と加藤第二艦 隊司令長官(18日当日は、加藤中将の代理として栃内中将が参加)は、宮中に参 内し戦勝報告の上、盛大なる凱旋祝賀会に招待され、この晴れの舞台と東京駅開 業を合わせ大祝賀会を行う事となった。 |
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図92 |
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東京駅開業式は、旧新橋駅長であった高橋駅長主宰により18日午前9時より 1,500名の招待客とともに挙行された。一方、前日広島を発った神尾司令官は各地で 歓迎を受けながら、18日午前10時過ぎ品川駅で紅白の花で装飾されたボギー式電 車に乗換え、10時半最初の東京駅下降者の栄誉をもって東京駅に姿を現した。(図 92)東京駅では想像を絶する市民の歓呼のうちに、宮中まで行進参内した。その後 11時半より、東京駅で一般市民の為に東京市主催東京駅開通祝賀会が始まり(20 日まで開催)、また午後6時からは同所で神尾中将凱旋祝賀会が引続き行われてい る。 |
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図93 |
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日独戦役絵葉書は既に幾つか紹介したが、その絵葉書に記念押印された「東京 停車場開場紀念印」に気づかれた方も多いと思う。東京朝日新聞の12月16日付記 事に開業式記念スタンプ押捺についての案内が載せられているので抜粋してみよ う。(図93) 記念スタンプ押捺 逓信省に於ては十八日より三日間祥事を記念する為、見事な る意匠を凝らせる特殊通信日附印を調整し、當日丸ノ内郵便局及新停車場構内同 局分室並に二箇所の臨時出張所(一は外庭西南隅、他は同西北隅に設置せらる)に 於いて相當切手を貼りし絵葉書に押捺すと云ふ。 |
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図94 |
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開業式後の20日付記事では、東京駅周辺は三日間の一般縦覧の間、多くの興行 師、飲食店、絵葉書屋、玩具屋、その他の売店が出店し相当の売上をあげ、丸ノ内郵 便局では開業式当日だけで106,456件の記念捺印を受付けたと伝えている。図94 は、東京駅のプラットホームの写真絵葉書で、田沢切手1銭5厘上に同記念初日印 が押されている。プラットホーム越しに、東京駅北側ドームが見える。一般市民には 東京駅の絵葉書よりも、凱旋将軍や日独戦関連の絵葉書のほうが人気があったよ うで、各種日独戦役絵葉書の多くに東京停車場開場記念印が押されている。 東京停車場(東京駅)についても簡単に記録したい。東京駅が出来る以前の東京 の鉄道網は、旧新橋駅(汐止)・品川駅方面と、上野駅方面とは完全に分断されて いた。この為明治中頃には、宮中への玄関口にもなる場所に大東京の起点となる 中央停車場を作り、鉄道網整備の必要性が指摘された。紆余曲折の後、新橋駅を 烏森(現新橋駅、東京駅と同日開業)へ移転し、東海道線品川駅より分岐して品川 ―新橋―東京―上野ルートを結ぶ事が決まり、南翼に乗車口、中央に帝室口(皇 室専用口)、北翼に市内電車口と降車口を持つ、壮大な赤レンガ建築の中央停車 場が東京丸の内に計画された。 明治38年起工、大正3年12月18日開場、12月20日営業開始。明治大正を代表す る建築家である辰野金吾による設計で、大林組を軸に9年余りの歳月をかけて建て られている。建築様式としては主にルネッサンス様式を採用し、細部では外壁にク イーンアン様式、窓枠部には一部イオニア式ピラスター(柱)をつけるなど辰野の建 築美を随所に見つけることが出来る。南北には銅板葺のドームをもち、約890万個 の赤レンガを使用し、建築費282万円(高架鉄道他総工費約1千万円)の巨費を投じ た、総横幅335m、高さ46.6m、3階建の荘厳な建築であった。 その後、関東大震災ではびくともしなかったが、昭和20年5月25日のB29による空 襲で大被害を受け、昭和22年の修復時に3階部分を取除いた2階建の現在の姿に なった。南北ドームは角屋根に修復され、航空機用のジュラルミン材等も利用され た。現在、2010年度までに3階部分と南北ドームを再建、竣工時の姿への復元が予 定されている。 |
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図95 |
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図95は、旧大正毛紙22銭貼の4倍重量書留配達証明で、大正8年1月東京ステー ションホテルの宿泊人が、東京中央郵便局東京駅内分室から差出したものである。 櫛型・東京中央/8.1.8./前8-9 D欄東京驛内、で抹消されている。東京駅内分室 は、丸ノ内郵便局を本局として東京駅開場日の大正3年12月18日に設置され、大正 6年4月1日に本局は東京中央郵便局に変更になった。また、東京ステーションホテ ルは大正4年11月2日に開業し、東京駅南翼に併設され72室の豪華客室を誇った、 当時帝国ホテルと並ぶモダンな国際ホテルであった。 |
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