日独戦争と俘虜郵便の時代 58
      04.05.20

30) 
シベリア出兵

 欧州にはじまった第一次世界大戦は、結果的に世界の勢力地図を大きく書き換え
る事になった。特筆すべきものとしては、目覚しい経済的発展をとげていたアメリカ
を世界政治の舞台に引きずり込み、一方ではロシア革命を引起こし世界初の社会
主義国家(ソビエト政府)を生み出している。ここでは、第一次世界大戦における日
本の軍事作戦の一部としてシベリア出兵にいたる経緯を簡単に紹介し、「日独戦争
と俘虜郵便の時代」第一部
を終えることにする。


 
1917年(大正6年)3月(露暦2月)の革命によりロマノフ王朝は滅び、帝政ロシアは
歴史から姿を消す。そして、
10にはボルシェヴィキの蜂起により早々と臨時政
府は崩壊し、
117世界初の社会主義国家となるソビエト政権が樹立された。
1918
33
、ソビエト政府はドイツと単独講和(ブレスト・リトフスク講和条約)に
調印、共産革命と東部戦線の消滅は連合国にとって大きな脅威となった。イギリス・
フランスは、穀倉地帯のウクライナや油田地帯のコーカサスをドイツから守る為に
南ロシアの反ボルシェヴィキ政権の支援を決定し、ウラジオストックの軍需品がソビ
エト政権に渡るのを防ぐ為に日米両国に派兵を要請した。

 
1918年(大正7年)1、イギリスの要請で海軍は軍艦(石見・朝日)をウラジオスト
ックへ派遣、
4に日本人殺傷事件がおきると同地に陸戦隊を上陸させている。陸
軍は反ボルシェヴィキ勢力への軍需品援助を続け、
5には日華陸軍協同防敵軍
事協定を調印し北満州出兵の準備も整えている。しかしながら、日本軍の動向を警
戒しているアメリカとの関係を重視し、この時点では本格的シベリア出兵は見送ら
れている。


 連合国の対ソビエト軍事干渉の直接的原因となったのは、チェコ軍団の反乱であ
った。かねてよりオーストリアからの独立運動をすすめていたチェコスロヴァキア軍
では、ロシア軍に投降し連合国側について東部戦線に参加していた部隊(チェコ軍
団)があった。ソビエト政府がドイツと講和したことにより、チェコ軍はシベリア経由で
西部戦線に移動することになったが、
1918514チェコ軍とハンガリー俘虜との
衝突(チェリアピンスク事件)により、ソビエト政府はチェコ軍の武装解除を命令し
た。拒絶したチェコ軍は、シベリア鉄道沿線各地で戦闘を開始し、西部シベリアに反
ボルシェヴィキ勢力を集結させた。イギリス・フランス両国はこれに呼応し、
7北ロ
シア・ムルマンスクに軍隊を派遣、日本とアメリカにチェコ軍救援を名目として再び
シベリア出兵を要請した。アメリカは出兵条件として日米兵力各七千に限定したが、
交渉の結果、日本は一万二千をウラジオストックへ出兵する事に同意させている。


 
1918年(大正7年)82、日本はシベリア出兵を宣言し、大谷喜久蔵大将をウラ
ジオ派遣軍司令官として、第
12師団(大井成元中将)を基幹とした日本軍一万二千、
アメリカ軍二個連隊七千(スタシア大佐)、イギリス軍一個大隊(ジョン・ワード大佐)、
フランス軍一個大隊他(ピシヨン中佐)、他イタリア、カナダ、中国各部隊等がシベリア
に出兵することになった。


224
8
11日、ウラジオストックで日本軍第12師団の到着を待つ各国兵士

 12師団は811ウラジオストックに上陸、満州鉄道沿線駐屯の第7師団と第3
師団はソ満国境の満州里からザ・バイカル州方面に出動。
9月末までに日本軍はチ
タ、ハバロフスクを占領、ニコライエフスクにも陸戦隊を上陸させ、アメリカの抗議を
無視し
11月までに七万二千の兵力に増派している。


225 ウラジオ派遣軍ウラジオストック差出、櫛型・第一/9.8.16./野戦局


226 裏面(図225)ウラジオストック在留邦人の大戦講和祝賀会


227 ウラジオ派遣軍モゴーチア差出
櫛型・第二十一野戦
/8.1.30./郵便継立所


228 サハレン州派遣軍アレキサンドロフスク差出
櫛型・第五十
/9.8.30./野戦局

 結果的に第一次世界大戦の終結と反ソビエト勢力の崩壊(チタには極東共和国
成立)により、連合国によるシベリア出兵は完全な失敗に終わったといえる。
1919
イギリス・フランス軍撤退、1920アメリカ軍撤退、192210日本軍撤退に至って
いる。最終的な日本軍の参加兵力は延べ約二十四万人、戦死者は三千とも五千と
もいわれ、
19205の尼港事件では多くの民間居留邦人も犠牲となっている。一
方では、日本の対中国満州進出にも敏感となっていたアメリカはさらに日本への不
信感を強め、日本の孤立化とともに、時代は激動の昭和をむかえる事になるのであ
る。


 第一部終わり 
近日、第二部連載予定。

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